皆さんはこの地図は何だと思われますか? どこかのエアラインの路線図? いいえ、違います。ルピシアのティーバイヤーチームがこれまでに行っている、買いつけの旅行先を示した地図なんです。
インド、セイロン(スリランカ)、中国、台湾の各地はもちろんのこと、近年実力をつけてきた東南アジアやアフリカの国々、さらにはルイボスティーを求めて南アフリカへ、マテ茶を求めて南米へ飛ぶこともあります。
なぜこれほど旅するかといえば、ルピシアは日本での「産地・農園特定のお茶」のパイオニアとして、お客様に「その土地でいちばんいいお茶」をお届けしたいから。お茶は農産物ですから、同じ産地・農園でも、作り手の姿勢やお茶の木の生えている場所によって、またその年の気候や収穫時期などによって、できあがりが驚くほど異なってきます。そのひとつひとつを直に目で見て、テイスティングして、最もおいしくて、安心で、リーズナブルで、ときにはうれしい驚きのある収穫を手に入れなければなりません。だからこそ、すべて農園任せ、業者任せにだけというわけにはいかないのです。
日本で茶畑といえば、静岡や宇治などの穏やかな風景を思い出します。でも世界のお茶農園には、ジャングルの中や険しい山中など、秘境といえる場所がとても多いのです。また国際的にはそういった辺境は政府の目が届きにくいため、治安が悪いこともしばしば。
だから買いつけの出張も、ときにはちょっとした冒険旅行になります。
まる1日飛行機を乗り継いだ後、床に開いた穴から地面が見える車に乗って、さらに1日でこぼこ道を揺られていく、などというのはまだ序の口。土砂崩れで車道が通行止めで、スーツ姿のまま山道を半日歩いて農園までたどり着いた、などということも。台湾の希少な高山茶の農園には、荷物用のゴンドラに乗って断崖絶壁の谷を渡らないと行けない場所もありました。南アジアやアフリカの国々では、カメラを構えたとたんに軍人に銃を突きつけられたり、逆に武装軍人に警護してもらって農園まで行ったこともあります。
でも、いざ農園に着いて絶品のお茶に出会うと、苦労もすべて吹き飛んでしまうのです。
バイヤー・テイスターの仕事は華やかな(?)出張ばかりではありません。日本のオフィスに帰っても、多忙な毎日が待ちかまえています。ことにダージリンやウバなど名産地のクオリティーシーズンには、オフィスは国際宅配便の山。現地から何百、何千というサンプルが送られてくるのです。
「たとえばこの間のアッサムのクオリティーシーズンには、1つの紅茶を選ぶのに400種ものサンプルを試飲しました。それから販売時期が迫ってくると、目のまわるような忙しさになったりします。次々に到着する宅配便を玄関で待ち構えていて、受け取ってはテイスティングルームに走るような(笑)。もちろん現地に行って選ぶことも多いのですが、その場合は事前に送っておいた日本の水で試飲するようにしています」
買いつけるお茶が決まっても、こんどはお茶の輸入プロセスで、トラブルの可能性が待ち受けています。
「お茶が厳しい農薬検査や通関を無事にパスしても油断できません。先日インドの港を出航した貨物船が沈没。幸いにも乗組員は無事に救出され、荷物のコンテナも助かりましたが、あやうく大事な紅茶が台無しになりかけました。道路や交通事情の悪い海外の山岳部では、運送トラックの横転事故などもままあります。無事に店頭やお客様の元にお届けできるまで、本当に気の抜けない仕事です」と、最後は苦笑する中村でした。