ルピシアだより 2019年12月号
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お茶で年越し お茶で年越し

年末、新しい年を迎える準備が始まります。忙しさに追われても、一年の労をねぎらう時間を忘れずに、お茶をお供に過ごしてみませんか。

写真:〈Pebble Ceramic Design Studio〉
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神様をおもてなし お正月の由来

「そもそもお正月はどうして始まったのだろう?」正月祝いの準備を始める前に、こんな疑問を抱いたことはありませんか? 毎年行う行事だからこそ、風習の由来を知っておけば、より気持ちよく新年を迎えるヒントになるかもしれません。

時代は、人々の暮らしが農耕中心だった頃まで遡ります。翌年もつらい労働に耐えて頑張るために、新しい年の神様(年神様 としがみさま)に豊穣の約束をとりつけてもらおうと、招いた神様を料理などでおもてなししたことがお正月の始まりといわれています。

本来、年神様をお迎えする準備を始めるのはその年の農作業が終わる日、旧暦12月8日の「事納め」からでしたが、江戸時代に入ると、婚礼以外は万事が吉日とされた12月13日が「正月事始めの日」に変わりました。

起源は鎌倉時代? 「忘年会」

年末の楽しみと言えば、一年の苦労を忘れて親類や友人、同僚と開く「忘年会」もそのひとつ。起源ははっきりと分かっていませんが、鎌倉時代から室町時代にかけ、皇族や貴族が歌を詠む「年忘れ」という雅な行事がありました。

現在の形に近づいたのは江戸時代、親しい者同士で集まり、お酒を酌み交わすようになったといいます。年中行事として慣例化したのは明治時代のことで、日本独自の行事ともいわれています。

今回はお酒が苦手な人も楽しめる、ノンアルコールカクテル「モクテル」のお茶を使ったレシピを紹介します。

お茶で味わう 年越しの風情 お茶で味わう 年越しの風情

ゆったり楽しむ 除夜のお茶

一年に一度だけの、大晦日の夜。お好きなお茶を家でゆっくり味わってみてはいかがでしょうか。今年の思い出を振り返りながら、大切な人たちとのんびりお茶を楽しむのも素敵な時間の過ごし方かもしれません。

お正月の準備も一段落した大晦日。茶道の世界では、一年の締めくくりとなるお茶を一同で楽しむ「除夜釜(じょやがま)」という茶事があります。大晦日の日が暮れたころから始まる除夜釜は、ろうそくや火鉢の灯りだけで行われる風情あふれる行事です。

ぼんやりとした灯りが照らす中、一服のお茶が終わると、年越しそばがふるまわれることもあります。ゆっくりと年越しの風情を感じていると、師走の茶席にどこからか聞こえる除夜の鐘の音が響きます。炉中の火に灰を被せ「埋(うず)み火(び)」にすると、いよいよ今年も残りあとわずかです。

お茶で終わり、お茶で始まる

年末をお茶と共にゆったりと終えれば、いよいよ晴れやかな新年の始まりです。除夜釜では、除夜の鐘が鳴るころに一度お客様が退席し、初詣に出かけます。新年が明け、再び戻ってくるころには茶室のしつらえがすっかり新年のものに替えられ、年をまたいで違ったお茶の世界を味わうことができます。

年明け最初の一杯は、「若水(わかみず)」と呼ばれる元日の早朝に汲んだ最初の水でいれた「福茶」が振る舞われます。若水は、心身の清め水として古くから大切に用いられてきました。福茶はその水でわかした煎茶のことを指し、地域によっては「大福茶」とも呼ばれ、昆布や梅干しなどを加えることもあります。

炭や釜、汲みたての水を用意するのが難しくても、丁寧にお好みのお茶をいれる時間を作るだけで十分です。年の始めに厳かな気持ちでいられる「自分だけ」の福茶を味わえば、染み渡るお茶が新しい年に福を招いてくれるでしょう。

<参考文献>
丹野顯著『暮しに生きる日本のしきたり』講談社(2000)