宮崎県の北部、標高600m超に位置する五ヶ瀬町。この霧深い山間地で、15世紀前半に中国から九州に伝わったとされる「釜炒り茶」を作り続けているのが、興梠洋一さんです。
興梠さんのお茶を初めて手にした方の多くが驚くのは、その独特な茶葉の見た目。くるりと捻れて丸まった形は、摘みたてのお茶の葉を釜で炒って作る釜炒り茶ならではの特徴です。
現在の日本茶は、茶葉を蒸して作るものが主流で、釜炒り茶はわずか数パーセントしか作られていません。蒸し製に比べて大変な手間と熟練の技を要しますが、炒ることで茶葉本来の風味が引き出され、「釜香(かまこう)」と呼ばれるすっきりとした芳ばしい香りのお茶が出来上がります。
興梠さんは、釜炒り茶ひと筋30年。一度、製茶を始めると、他の誰も製茶場に入れず、たった一人で茶葉と向き合います。黙々と火加減を調整し、指先の感覚と香りで茶葉の状態を確かめながら、納得のいくお茶へと仕上げていくのです。
「お茶というのは、見た目を楽しみ、香りを感じていただいて、初めて味わいの真価が発揮される」と興梠さん。澄んだ黄金色の水色、豊かに立ち昇る香気、胸がすくようなすっきりとした味わい――。釜炒り茶の名人から届いたばかりの今年の新茶を、どうぞ五感でお楽しみください。