ルピシア グルマン通信2月号 Vol.90 ルピシア グルマン通信2月号 Vol.90
ホクホク、シャキシャキ 時を纏(まと)った白い宝石、ゆり根 ホクホク、シャキシャキ 時を纏(まと)った白い宝石、ゆり根

今月のテーマはゆり根。地域によっては馴染みの薄い食材ですが、香り、食感ともに、味わい深いゆり根。知らないのはモッタイナイ、ゆり根料理をご紹介します。

主要輸出品だったゆり根

ゆりは北半球、アジアを中心にヨーロッパ、北アメリカなどに広く分布する植物で、100種以上の原種があると言われています。鱗茎(りんけい)と呼ばれる、いわゆる球根を持ち、夏に美しい花を咲かせます。西洋では聖書に登場する花のひとつ。キリスト教において白いゆりは「純潔」の象徴として用いられ、聖母マリアの象徴としてしばしば宗教画の中にも登場します。

また日本や中国では古くから食用や薬用として球根=ゆり根が用いられ、漢方薬としては滋養強壮、咳止めなどに効果があるとされてきました。

日本でゆり根がいつごろから食されていたのかは定かではありませんが、江戸時代にはその記録が残されています。江戸時代に来日した医師シーボルトや植物学者ツンベルクなどが日本からゆりの球根を持ち帰り、欧米に紹介すると、その華麗な花は大変な評判を呼びます。幕末から明治初期にかけ、園芸用の日本産ゆり根は絹などと同様、日本の主要輸出品として欧米へ向け、たくさん輸出されたそうです。

北海道とゆり根

北海道でゆり根の栽培が始まったのは大正時代、多度志(たどし)村(現在の深川市)の和田伊三郎さんが、本州に自生するコオニユリから選んで栽培を始めたのが最初だと言われています

今日、ゆり根は国内生産の9割以上が北海道産。ルピシア グルマンのあるニセコ町のお隣、真狩(まっかり)村は道内でも有数のゆり根の名産地として知られ、道内作付けの約3割を占めています。真狩村でゆり根の栽培が始まったのは1961(昭和36)年、同村に住む斎藤行雄さんが在来種の増殖に取り組み、「斎藤ゆり」として評判を得ます。1966(昭和41)年には「真狩村ゆり根生産組合」が設立され、真狩村は本格的なゆり根栽培へと歩み出しました。

ゆり根の栽培は多くの手間と時間を要します。1年目の春、米粒大ほどの種球を畑に植えることから始まり、ほぼ毎年のように秋にゆり根を掘り返し、冬は寝かせ、春にふたたび植えるという作業を繰り返します。こうして約5年の歳月を費やして栽培されているのです。したがって、ゆり根栽培には5〜6つの畑が必要で、それぞれの畑には異なった発育状態のゆり根が育成されています。ゆり根は大変傷つきやすいため、すべての作業を手作業で行う必要があります。ゆり根は生産者が手塩にかけ育てた高級食材。長い歳月を経た秋、ひとつひとつ慎重に畑から掘り出されたゆり根は、まさに畑の白い宝石と言えるでしょう。

名産地、真狩村

「ゆり根はぜひ挑戦したかった食材」と語るルピシア グルマンの植松シェフが車を走らせ向かう先はレストランから15分ほどのゆり根の名産地、真狩村。現在、70軒ほどあるゆり根生産者の一軒、『佐伯農場』の佐伯幸二さんを訪ねました。お邪魔した作業場では収穫したゆり根の出荷作業の真っ最中。奥様の大美さん、ご両親の雄二さん、まつ子さん、さらにご近所の皆さんの助けも借り、総出で作業をされていました。

「ゆり根はとても傷つきやすいので、とにかくていねいに作業しなければなりません」と幸二さん。畑から手で掘り出され、作業場へ持ち込まれたゆり根はまず鱗茎の先の細い根を切り落とした後、ゆり根専用の洗浄機で土を洗い流します。「昔は川の水で洗ったから、本当に冷たくてね」と雄二さんが笑います。洗浄の後、傷や規格外のものがはねられ、重量により6等級に選別。そして、ゆり根の鮮度を保つ専用のオガクズと共に箱詰めされ、出荷されます。ゆり根に傷がつくと価値が下がってしまうため、これら一連の作業はすべて人の手で、ゆり根をひとつひとつていねいに取り上げながら行われます。約5年もの歳月を費やして育てるゆり根ですから、最後まで神経を使う作業が続きます。

ちなみに、ゆり根は収穫してから、少し寝かせたほうがおいしくなるのだそうです。秋に収穫されたゆり根が正月料理の素材として珍重されるのもそうしたことが理由なのかもしれません。

新しいゆり根料理

「ゆり根という食材に親しみのない地域の方も多いですよね。今回はそうした皆さんにもゆり根の持つ、独特の味わいを提案したいと考えています」と語る植松シェフ。もちろん、地元食材としてこれまでも調理した経験は豊富ですが、今回、グルマン通信のテーマ食材としてフィーチャーするにあたって、メニューを再考し、新たなゆり根の魅力を引き出しました。

茹で上げたゆり根のほのかで甘い香り。さらに熱の入れ具合でも食感が変わるゆり根。さっとソテーすればシャキシャキとした、しっかりと茹でればホクホクとした独特の食感を味わうことができます。

「調理の仕方で異なる、ゆり根の味わいのバリエーションをお楽しみいただけるメニューをご用意しました」と植松シェフ。

ゆり根と言えば、茶碗蒸しの底に沈んでいる一片しかご存知ないあなた。ぜひこの機会にゆり根料理の新しい魅力を発見してください。