ルピシア グルマン通信11月号 Vol.97 ルピシア グルマン通信11月号 Vol.97
ご飯の正解、鮭 ご飯の正解、鮭

今月のテーマは北海道の秋の味覚を代表する「秋サケ」です。古くから日本の食卓に親しみ深い食材ならではの、心に染みるサケのメニューをご紹介します。

北海道とサケのかかわり

北の大地・北海道とサケとの関係はとても古くからあったことがわかっています。石狩(いしかり)市にある「石狩紅葉山49号遺跡」の縄文時代中期の川の跡からは、日本最古のサケを捕獲するための施設が発見されています。約4000年前、縄文の人々も、この素晴らしい自然の恩恵を受けていました。

サケが生まれた川へ戻る「母川(ぼせん)回帰」の習性は古くから知られており、我が国でも江戸時代中期には、サケが産卵しやすい河川の環境を作るなど、自然ふ化増殖の取り組みがされていました。

日本で最初のサケの人工ふ化事業が行われたのは明治9年(1876)、茨城県の那珂川(なかがわ)。翌、明治10年(1877)、札幌の偕楽園(かいらくえん)(現在は旧跡・日本最古の都市公園)にふ化試験場が完成しますが、当時はまだふ化率が低かったようです。明治21年(1888)、石狩川支流の千歳川(ちとせがわ)に官営の「千歳中央ふ化場」(現在の「さけますセンター千歳事業所」)が完成、これが現在につながるふ化事業の礎(いしずえ)となりました。

一般的に食用のサケは海で捕獲されます。河川に遡上したサケを捕獲するのは主に人工ふ化用のものです。

現在、日本で人工ふ化放流事業が行われているのはサケ(シロサケ)、カラフトマス、サクラマス、ベニザケの4魚種。中でもシロサケは放流量も漁獲量ももっとも多く、秋に収穫されるいわゆる「秋サケ」はこのシロサケのことです。

北海道の生まれた川から海へ旅立ったサケはオホーツク海、ベーリング海を通過し、遠く北太平洋付近まで到達。そこからまた故郷の川を目指して戻ってきます。サケがどのように方角や河川を判断しているのかは、まだ解明されていませんが、磁気や嗅覚によるものだという説が有力です。2万km以上もの旅を経て、故郷の川へ戻るサケには、自然の神秘とロマンを感じずにはいられませんね。

寿都(すっつ)産の秋サケ

食のリゾート『ヴィラ ルピシア』があるニセコエリアから車で50分ほどの海沿いの町、寿都町。毎年9月、この港町のサケ漁が解禁になると、港はにわかに活気づきます。寿都の海のサケ漁のピークは10月上旬。例年、10月末頃まで続きます。

「僕は石狩地方の出身ですが、子供の頃、冬になるとかならず家族で荒巻鮭を買いに出掛けました。ドライブがてら、増毛(ましけ)方面まで足を伸ばすこともありましたね。買ってきた塩鮭の切り身を焼いて、熱々のご飯といっしょに食べる。これが僕の冬の朝食の思い出です」と『ヴィラ ルピシア』の植松シェフは寿都へ向かう車の中で楽しそう。

植松シェフがまず向かった先は、いつも寿都産の素晴らしい鮮魚を提供していただいている『マルホン小西漁業』。この日はシーズン初の秋サケを受け取りに伺いました。

「いやぁ、ずいぶん立派な秋サケですね。この綺麗に輝く張りのある銀色の魚体が鮮度の証です」と植松シェフ。「今日は大きめの4年魚が用意できました」と、船頭の岩城孝さんも満面の笑みで応えます。秋サケ漁で獲れるのは4年魚が中心、そこに3年魚と5年魚が交じるのだとか。「これが約4kgですか!こんなに大きな魚が目の前の海を泳いでいるのかと思うと、本当にすごいことだと、いつも思うんですよね」と初ものの秋サケを前に植松シェフは上機嫌です。

懐かしい味わい

「今日はもう一軒、寄りたい場所があるんです」と植松シェフが次に向かったのは、寿都湾に臨む海沿い、木製の大きな櫓が目印の『マルトシ吉野商店』。

店主の吉野寿彦さんは寿都でも有名なアイデアマン。18年ほど前、地元のサケをもっとおいしく食べてもらう方法はないものかと、真冬の野外で寒干しを試みたところ、評判を呼びます。さらに試行錯誤を重ね、ついに “鮭より旨い鮭” と呼ばれる「寒風やぐら干し 鮭寿(けいじゅ)」を誕生させました。

「『鮭寿』というブランド名は、他所では真似のできない、寿都産である誇り。一生懸命に取り組んだ甲斐があって、さまざまな賞をいただくようになりました」と語る吉野さんは、その後も次々と新しいサケの加工商品を世に送り出しています。

「ああっ、これは懐かしい味だなぁ……。子供の頃に食べたサケの味だ」と吉野さんの作った製品を試食する植松シェフ。「ほら、僕らはすぐ “脂がのった” とか言いがちですよね。でも、なんでも脂があればいいかと言うと、そうでもない。吉野さんが手がけるサケの製品には、昔ながらのシロサケ本来の旨みが凝縮されています。噛み締めていくと、味が増していく。僕はこれこそが北海道のサケの味わいじゃないかって思いますね」と植松シェフが言えば、「嬉しいですねぇ。毎日食べても食べ飽きないのが、ウチのサケの魅力です」と吉野さんは胸を張ります。

» マルトシ吉野商店の商品をこちらでご案内しています。

ご飯のお供

日本人の食生活に深く根ざした魚、サケ。今回、この食材を調理する植松シェフから、ちょっと意外な発言が飛び出しました。

「今回は僕の味覚の根底に横たわる、子供の頃のサケの味わいを呼び起こしたいと思っています。テーマはズバリ『白いご飯に合うサケ』。毎朝の食卓に並んだ焼き鮭のような、噛み締めるとしみじみおいしいメニューを提案します」

“食欲の秋” に相応しい、ご飯と相性抜群のサケのメニュー。みなさん、ご飯をご用意の上、ぜひ北海道の海の豊穣をお楽しみください。