ルピシア グルマン通信9月 Vol.102 ルピシア グルマン通信9月 Vol.102
贅沢なごちそうハンバーグ 贅沢なごちそうハンバーグ

今回のテーマは皆さん大好きな「ハンバーグ」です。これまでもたくさんのハンバーグメニューにご好評いただきましたが今回は“ひと工夫”を凝らした新メニューをご提供します。

ハンバーグのマエストロ

「新しいメニューのため、今日はある人たちと待ち合わせをしているんです」。ニセコから約4時間、ヴィラ ルピシアの植松シェフが車を走らせて到着したのは十勝(とかち)平野の西側、日高(ひだか)山脈の裾野に位置する上川(かみかわ)郡清水(しみず)町の肉牛牧場『十勝清水 コスモスファーム』(以下、『コスモスファーム』)。

植松シェフを待っていたのは札幌で創業16年目を迎えるハンバーグステーキ店『ノースコンチネント』の川畑智裕(かわはたともひろ)シェフ。同店は札幌のグルメランキングで常に上位にランクされる人気店。上質な道産食材を使用したハンバーグが観光客をはじめ、地元からも幅広く支持されています。「今回のハンバーグ特集に川畑さんの力をお借りしようと相談をしていたところ、『ではコスモスファームへ行きましょう』ということになったんです」。

ブラウンスイスとの出合い

「5、6年前でしょうか、ハンバーグにより適した道産牛肉を探していた時、『コスモスファーム』のブラウンスイスをご紹介いただきました。ブラウンスイスは食べている中盤から旨みがグーンと伸びてくるような、今までに味わったことがないお肉でした」と語る川畑シェフ。

ブラウンスイスはヨーロッパのアルプス地方原産の乳牛で、国内では飼育数が少なく、お肉として流通することはほとんどない希少品種です。

「当初、お店のお客様には『これはブラウンスイスという品種のお肉ですよ』とわざわざ説明して食べていただいていました。混ぜものをしない単一品種のハンバーグです。そのうち、小学生くらいのお子さんまでもが『僕はブラウンスイスのハンバーグがいい!』と言うほどの人気メニューになったんです。今回4種類のお肉でハンバーグを作りますが、おそらく一番人気の牛肉にはぜひブラウンスイスを使いたい。そこで、植松シェフに『コスモスファーム』に来ていただいたというわけです」

素敵な手違い

『コスモスファーム』は1982年、現在の代表である安藤智孝(あんどうともたか)さんのお父様が創業した食肉牛を生産する牧場。「牛にも、人にも、あったかく」をモットーに安心・安全で良質な牛肉を提供し続けています。

創業以来、『コスモスファーム』ではホルスタインのオスの子牛を買い付け、肥育し、食肉牛として出荷するという事業を中心に行なってきました。10年ほど前のこと、買い付けた牛の中に1頭の見慣れない牛が混じっているという“事件”が起こりました。「そもそも、それは手違いでした」と安藤さんが語ってくれたのはユニークな偶然でした。

「ホルスタイン以外の牛を育てても買い手が付かないのですが、買い付けをお願いした方が誤って1頭のブラウンスイスを落札してしまいました。届いてしまったものを追い返すわけにもいきません。とりあえずトレーラーから降ろし、牛舎へ入れましたが、これがなかなか愛嬌のある子でした(笑)」

この“素敵な手違い”をきっかけに『コスモスファーム』では近所の牧場からブラウンスイスのオスを買い付け、肥育するようになります。当時、ブラウンスイスはミルクを搾るメス以外、まったく価値がありませんでした。しかし、十勝の酪農家の間に「『コスモスファーム』がオスを引き取ってくれる」という話が広まります。

「価値がないとはいえ、同じ生きものですから、本当は酪農家さんたちも困っていたのだと思います。ウチに預けたら大切にブランド牛にしてくれると、徐々に連絡をくれるようになりました」

ところで、ブラウンスイスのオスに価値がなかったのは、本当においしくなかったからなのでしょうか?

「それは単純に固定観念だったと思います。ホルスタインとブラウンスイスを比較すると、ブラウンスイスは旨みが深く、コクがあると感じました。歴史的にも和牛の品種改良にも使われた品種ですから、おいしくないはずがない。現在は『ノースコンチネント』のご尽力もあり、ブラウンスイスは市民権を得つつあります。私たちが出向く札幌の百貨店の即売会などでも、『ノースコンチネント』で使っているお肉ですよとご説明すると、皆さん大変興味を示されます」と語る安藤さんです。

想いを重ねたハンバーグ

「僕はもともと和牛以外の牛を好んで使ってきたのでブラウンスイスには興味をそそられますね。今回は川畑さんにハンバーグのパテを作っていただき、それに合わせたソースを僕が作ります。食材を作る人に加え、それを料理する人の想いまでを引き受けて、僕が仕上げる。この新しい創作のスタイルはとっても刺激的です」と意気込む植松シェフ。

一方、川畑シェフは「お肉の旨みを素直に出していくと同時に植松シェフとご相談し、料理の仕上がりの見栄えにも創意を凝らしました。さらにご家庭でもおいしい焼き上がりを楽しんでいただけるように形状も工夫しています。ぜひ多くの方に召し上がっていただきたいですね」と、こちらもやる気満々。

二人の料理人が協力して創り出す、まだ誰も食べたことがない夢のハンバーグメニュー。ぜひお楽しみください。