ルピシアだより 2016年6月号
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対談 釜炒り名人×鉄の芸術家 「鉄」と「火」に向き合う二人 対談 釜炒り名人×鉄の芸術家 「鉄」と「火」に向き合う二人

対談 釜炒り名人×鉄の芸術家 「鉄」と「火」に向き合う二人

春の足音が近づく頃、二人は再会しました。宮崎県五ヶ瀬町で、「釜炒り製法」のお茶を作る興梠(こうろぎ)洋一さんと、北海道ニセコ町で鉄を使ったアート作品を生み出す澤田正文さん。興梠さんがニセコを訪ねた時に一緒にスキーをした仲だという二人は、再会の挨拶もそこそこに興梠さんが作ったお茶を前に話し出しました。共通点は「鉄」と「火」。さて、どんな会話が繰り広げられるのでしょう。

  • 興梠:前に送った俺のお茶どうやった?
  • 澤田:「これが興梠さんのお茶かあ」と思って飲んだよ。銅で作った大きなやかんでお湯を沸かして、グツグツする中に「それっ!」とドボンと茶葉入れて。お茶のいれ方、分からないから「ちゃんといれたら、もっとうまいんだろうな」と思ったよ。
  • 興梠:そのいれ方が悪いわけじゃなくて。このお茶、水に負けるとよ。負けるというと弱いイメージだけど、繊細っていうこと。いい水で、ちゃんとしたいれ方で飲むと、ものすごくうまい。沸騰したお湯にガッと入れると、お湯にも負けちゃうんで「あれ?」っていう味になる。じゃあ、飲んでみますか。日本茶の主流、深蒸しの煎茶と俺の釜炒り茶。
  • 澤田:(飲み比べて)うーん、お茶のことは分からないんだけど、深蒸し煎茶の方が今まで飲んできた緑茶の味。釜炒り茶の方がすっきりして爽やか。紅茶のような雰囲気。
  • 興梠:的確な感想(笑)。

若い頃の葛藤

  • 興梠:お茶を作り始めて、もう30年越したね。お茶作りを勉強してた学生時代は、釜炒り茶でどうやったら深蒸しに勝てるかな?同じ土俵に立つには、分かりやすい味にしなくちゃ、甘くしなくちゃと思ってた。深蒸しを作る畑と同じように、肥料やって害虫駆除して。でも、「炒る」と「蒸す」、これだけ表現方法が違うのに、同じ味を求めていいのかなっていう試行錯誤もあった。
  • 澤田:今はそういう葛藤はない?
  • 興梠:10年以上前、低農薬から無農薬に変えて。茶葉の力を出すような育て方に変えた。20年前に自分が作ったお茶、30年前に自分が作ったお茶は、それぞれ全然違う。今だからこの表現ができるのかなって思う。
  • 澤田:俺もそうだな。鉄を叩いて形を表現する中で、何回も何回も大手術して、「なんか変だけど、まいいか。これだけやったんだから」と若い頃は思ったこともあったけど、そのまま続けるとずっと気になっちゃう(笑)。途中でやり直す決断ができるようになってきた。今までやってきた経験の蓄積がどんどん作品の形にプラスされていくみたい。

「止める」こだわり

  • 興梠:澤田さんは自分と同じ火を使う人だから分かると思うっちゃけど。釜で茶葉を炒るとき、一瞬でパッと止める。「殺青(さっせい)」っていうんだけど、香りがピークに達しているときに一瞬で封じ込めてあげる。これが自分のこだわり。俺の作った茶葉の茶殻は、青々しとるやろ。(深蒸しを指して)こっちは時間が経つと色が変わって黄色。止めるタイミングも茶殻の色に影響すると。
  • 澤田:本当だ。色が全然違う。止めることにこだわりがあるのは同じだわ。作品を創る前に下絵を描くんだけど、描き過ぎるとろくな絵にならない。荒いけど、ここで止めると動きがいい。それを過ぎると普通の絵になっちゃう。
  • 興梠:自慢じゃないんだけど、この前、品評会でたくさんお茶が並んだ時も、茶殻が俺のだけキラキラ輝いとったけんね(笑)。今は品評会で戦って勝つお茶を作ろうとは思ってない。そうやって吹っ切れたら、自分の釜炒りと向き合えるようになった。
  • 澤田:俺も同じかな。公募展で入賞する作品を創ろうとすると、その公募展の傾向や好みに合わせるようになる。創っていて自分で楽しいと思うものしか創らないと決めてる。そうしたら面白いものができる。
  • 興梠:最近、自分もそう(笑)。
  • 澤田:やってることは違ってもさ、目標はお互いにあって、そこに到達するまで許しちゃいけないことを、どっちも同じくらい持ってるんじゃないかな。ところで、興梠さんの釜は鉄板?
  • 興梠:鋳物(いもの:鋳型に溶けた金属を流し込む製法で作られたもの)。今度、澤田さんが鉄板で創ってよ。
  • 澤田:やっぱり鋳物か。鋳物は中に細かい気泡があるから、温度がやわらかく伝わるんだよ。鉄板はいきなりデーンと伝わるから、俺が叩いて創る鉄釜より鋳物の方がいいよ。
  • 興梠:大丈夫。それでも、やわらかく熱が伝わるようにできるのが澤田さんの技術(笑)。
  • 澤田:鉄板でもおいしく作るのが興梠さんの技術(笑)。
  • 興梠:じゃあコラボしましょう(笑)。
澤田正文アトリエ「RAM工房」
〒048-1522 北海道虻田郡ニセコ町曽我6-1