ルピシアだより 2019年9月号
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香ばしいお茶 〜火入れの妙〜 香ばしいお茶 〜火入れの妙〜

お茶の魅力の一つでもある香ばしい風味。お茶の個性を決定付ける要素は産地や品種など様々ありますが、最終的に風味を左右するのは火の力、すなわち「火入れ」の工程が重要な鍵を握っています。お茶の生産家にとって、ここはいわば腕の見せどころ。茶葉の香りを残すも、焙煎特有の香りを引き出すも、すべて自身の技術にかかっているからです。

今回取材班は、香ばしさの魅力を探るとともに新たな香ばしいお茶を求め、火入れの名人であるお茶の生産家の下を訪ねました。香ばしさを生み出す火入れの妙とは? 台湾と九州・宮崎県での現地レポートをお伝えします。

台湾 鹿谷(ルーグー) 台湾 鹿谷(ルーグー)

お茶の国、台湾。日本でもその名をよく知られる台湾銘茶・凍頂烏龍(トウチョウウーロン)の特徴といえば、ナッツのような香ばしい香りと熟した果実を思わせる甘い味わい。この独特の風味を生み出すには、熟練の焙煎技術が不可欠です。

凍頂烏龍の産地・鹿谷郷(ルーグーゴウ)に茶園を持ち、栽培から製茶まで行う劉志豪(リュウ ジーハオ)さんは、ルピシアが信頼を寄せる生産者の一人。取材班の訪問を快く迎えてくださいました。

劉さんによると台湾では最近、焙煎の強いお茶が減ってきてしまったのだそう。「もっとこの魅力を感じてもらいたい」と話す劉さんに、“香ばしい”には日本人にとって“ほっとするような心地良い香り”というニュアンスがあることを説明すると、「ぜひ日本の皆さんに喜んでいただけるお茶にチャレンジしたい」と、ルピシアのために新たに香ばしいお茶を作っていただけることになりました。

早速、お茶作りを開始。何かヒントを得られるかもと期待を込め、まずは劉さんが未体験という日本茶を一緒に飲んでみることに。焙じ茶、玄米茶、煎茶の中で劉さんの興味を誘ったのは「台湾高山茶のように爽やかな青い香りがする」という煎茶。「焙煎して華やかな香りを引き出してみます」と実践していただくと、ほんのりと香ばしく華やかで、そして力強い味わいに仕上がりました。焙煎前からすでに、出来上がりの香りが想像できるそう。原料の特徴を見極め、火入れの時間や温度を調節する勘どころも、親子3代に引き継がれる技の一つです。

試作を重ね、劉さんに作っていただいたのはご自身の茶園の茶葉を使った2品。一つは台湾高山茶を低めの温度でじっくり焙煎し、香ばしくてフルーティーな香りを引き出したもの。もう一つは凍頂烏龍の伝統的な味わいを感じられるものが完成しました。

宮崎 五ヶ瀬 宮崎 五ヶ瀬

台湾に続き取材班が向かったのは、九州のほぼ中央に位置する宮崎県・五ヶ瀬町。熊本空港から1時間ほど車を走らせると、阿蘇の山々を展望できるなだらかな丘陵地が広がっています。

五ヶ瀬で作られるお茶の主流となっているのは「釜炒り茶」。日本のお茶の99%が「蒸す」加熱方法なのに対して、釜で「炒る」ことで加熱(殺青(さっせい))します。そのため、釜香(かまか)と呼ばれる爽やかで香ばしい香りが最大の特徴になります。

その五ヶ瀬で数々の受賞歴を持つ釜炒り茶の名人、興梠(こうろぎ)洋一さんの下へ。製茶工場兼ご自宅に到着すると、挨拶もそこそこに早速お茶をご馳走してくださいました。「普段から色々試してるんですよ」と興梠さんがいれてくださったのは、やぶきた品種を一度発酵させ、ダージリン紅茶のように華やかな風味に仕上げたものでした。

  • 興梠さんお手製、絶品の釜炒り茶を作り出す平釜。
  • 研究熱心な興梠さんは、常にお茶の試作を重ねているそう。

さて、今回の本題へ。火入れの達人である興梠さんとの新たな香ばしいお茶作りです。紅茶や緑茶、烏龍茶など様々なお茶の中からベースの茶葉を選定。選ばれたのは、以前ルピシアと興梠さんで現地視察に赴いたことのある、インド・ダージリンの茶葉でした。

ヒルトン茶園の茶葉を手に取りながら「茶葉を見れば、火の強さとか萎凋(いちょう)時間とか、どういう工程で作られていったのか大体わかる」と話す興梠さん。それぞれのお茶にはどんな焙煎をすれば、その魅力を引き出せるか、自ずと見えてくるのだとか。

早速焙煎にとりかかり、あっという間に部屋は芳しい香りでいっぱいに。焙煎に使用したのは台湾で用いられる焙籠(ペイロン)という焙煎機。1時間余りの間、温度を調整しながら時折茶葉の上下を返して様子を見ます。「焙煎香の中にダージリンの爽やかさを包み込むようにしたい」と、火力や時間などの条件を変えて、いくつかの風味を同時進行で調整。同じ茶葉から焙煎の方法を変えて全く異なる風味を作り出す技に、我々取材班は終始圧倒されていました。

仕上がり間近になると10分置きに試飲し、風味を確認しながら、ついにイメージ通りのものが完成。仕上げには平釜でさっと焙じるなど、焙煎機自体も複数組み合わせたこだわりの逸品を作っていただけました。興梠さんご自身も「新たなチャレンジになりました」と目を輝かせる出来栄えです。ぜひ一度お試しください。

お茶を焙煎してみよう!
人はなぜ“香ばしさ”に惹かれるのか 人はなぜ“香ばしさ”に惹かれるのか

火香(ひか)でリラックス

お茶の香り成分は、爽やかな青みのある香りや、花にも似たフルーティーな香りなど、全部で300種類以上あります。例えば、フレッシュな摘みたての茶葉そのものの香りは「青葉アルコール」といって、緑茶などに含まれる香り成分です。

焙じ茶に代表されるような香ばしい風味のお茶に含まれるのは、「火香」とも呼ばれる香ばしい香り成分「ピラジン類」。茶葉に含まれるアミノ化合物などが、焙煎などの加熱によって変化したものです。

このピラジン類は心を落ち着かせ、リラックスさせるといわれており、焙じ茶などの他に、炒った玄米や大麦、胡麻などにも含まれています。

忙しい毎日を過ごす中で感じる「ほっとしたい」という気持ちが、私たちを無意識に香ばしい風味に引き寄せているのではないでしょうか。

ルピシアの焙じ茶 焙じ茶ラテ

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