[ 訪問記 04 ]
クローナルの名園 シンブーリとピュグリ
世界を代表する紅茶産地ダージリンからの現地訪問レポート第4回目。注目を集めるクローナル品種で有名な2つの茶園を紹介します。
■中国種とクローナル
1852年に茶園としての開拓が始まったダージリン。当初は中国から運ばれた茶樹が植えられました。その子孫である種から育った茶樹は中国種と呼ばれ、伝統的な厚みや深みのある味わいが特長です。また主に標高の低いエリアでは、インド原産の葉っぱが大きく力強いボディが特長のアッサム種も栽培されています。
それに対して、自然に交配したお茶の中から、特に風味に優れているものや病気や寒さに強いものを選抜し、挿し木で栽培した品種をクローナルと呼びます。
近年、注目を集めるクローナルの代表がAV2 (Ambari Vegetative 2)。長いシルバーチップが美しく、花や果実をおもわせる優美な香りは圧倒的です。ティンダーリアやサングマ、タルボ、キャッスルトンなど、ダージリンの各地の茶園で作られるスペシャルティーの多くはこのAV2の味わいをベースにしたもの。ちなみにAV2の頭文字のAmbariとは、この茶樹を生み出したシリグリ近郊の茶園名に由来しています。
■クローナルの名園 シンブーリ茶園
ネパールにもほど近いミリクバレーに位置する、特に華やかな香りのクローナルで知られるシンブーリ茶園のマネージャーハウスを訪問すると、バイヤーとの再会を喜ぶマントリ氏夫妻の歓迎を受けました。
料理上手なマントリ夫人による、オクラのフライや中国風の八宝菜などベジタリアンスタイルのランチの後、主にAV2のクローナル種の茶樹が植えられていることで知られる、ティンリンと呼ばれる特別な茶園を訪問。高台にヒンドゥーの寺院が建つ広々とした茶園は、夕暮れ時ということもあってか、どこか神々しい風格も漂っています。
「今年のファーストフラッシュはとても良い仕上がりになっているよ」と語るマントリ氏。約500ヘクタールの茶園のうち、約100ヘクタールでクローナルを栽培しているとのこと。
シンブーリではグリーンティー、ウーロンティー、セカンドフラッシュ(夏摘み紅茶)の時期のルビーと呼ばれるスペシャルティーや伝統的なマスカテルフレーバーとよばれる中国種の紅茶など、季節ごとに多彩なお茶を製造していることも特長です。「ぜひシンブーリの様々なお茶を味わって欲しい」とマントリ氏は熱く語りました。
■若々しい茶樹の魅力 ピュグリ茶園
ここ数年、ファーストフラッシュのスペシャルティーを中心に、目がさめるような鮮やかな味わいのクローナルの茶葉を生産している、ルピシアのバイヤー注目の茶園の一つがピュグリです。
シンブーリ茶園に隣接するピュグリは、ミリクバレーの北東に広がるなだらかな丘陵地帯の茶園。近年、積極的にAV2への茶樹の植え替えを進めています。 マネージャーのアニール氏に案内していただき、オーガニック栽培のAV2の茶園を訪問しました。一見、ひょろっとした外観で、やや長めの新芽、シルバーチップがゆっくり発育するため収量は少ないというAV2の新芽を摘んで噛みしめると、凝縮した花のような香りとみずみずしい若葉ならではの味わいが口の中に広がります。
「ピュグリの若い茶樹で作ったダージリン紅茶は、他と比較することができないぐらいの素晴らしいアロマが特長なんだ」と語るアニール氏は、この若いAV2ならではの華やかな風味を生かすため、茶摘みから製茶まで他のお茶とは分けて、茶葉の形が壊れないように細心の注意をはらって製茶をしているということ。ダージリンの伝統を守りながら、さらなる進化を続けるピュグリのこれからの味わいに期待しながら、アニール氏とピュグリへの再訪を誓ったスタッフでした。