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青郊窯の工房を訪ねて 青郊窯の工房を訪ねて

毎年、桜の季節にルピシアのオリジナル豆皿を制作してくださっている九谷焼の窯元「青郊」。ルピシアとのコラボレーション3年目となる今年は、「ブック オブ ティー・ジャパン -日本三十景-」に入っている限定品の豆小皿も制作していただいています。ルピシアのオリジナル豆皿がどんな風に作られているのか、石川県能美市にある工房を訪ねました。

ブック オブ ティー・ジャパン -日本三十景-

徹底した高品質と手頃な価格を追求

九谷焼の最大の魅力は、何といっても華やかな絵柄と優美な色彩にあります。特に、九谷五彩(緑、黄、赤、紫、紺青)と呼ばれる5色の和絵具(わえのぐ)を使い、厚く盛り上げて塗る「上絵付け」は、九谷焼の特徴です。

青郊では、そんな九谷焼の絵付けを印刷で行っています。和絵具を重ねて転写紙を作り、それをシールのように器の表面に貼り合わせ、焼き上げていくのです。

昭和の後期まで、九谷焼の食器は非常に高価で、観賞用が主流でした。そうしたなか青郊では、和絵具の美しさや手描きの風合いはそのままに、絵付けを印刷化する技術を研究。九谷焼を日常食器として使えるよう、高い品質と手頃な価格の両立に挑戦し続けてきました。

いつもは絵付けのデザインも自社で行う青郊ですが、ルピシアとの共同開発では、ルピシアがデザインを担当。その図案をもとに、青郊が転写紙を作るという流れで行われました。

  • 原画のアウトラインを筆で起こす「骨描き(こつがき)」の作業。リズムよく筆を走らせるのがコツ。
  • 骨描きしたデータをパソコンに取り込み、色ごとに版のデータを作っていきます。
  • 転写紙を貼り付けた焼成前のルピシアの豆皿。黄色い部分はカバーコートで、焼くと揮発してなくなります。
  • 焼き上がり。美しい色彩に仕上がっています。

印刷に適した和絵具を自社で開発

青郊の工房を見学して、あらためて驚いたのは、手描きと見分けがつかないほどの印刷技術の高さ。例えば、九谷焼の特徴であるぷっくりと膨らんだ和絵具の質感もその一つです。「和絵具は色のついたガラスのようなもの。様々な材料を秘伝のレシピでブレンドして、透明感が高く盛りの厚い絵具を自社開発しているんです」と話すのは、北野啓太社長。焼いた時に発色が飛びにくい絵具や、何度焼いても剥がれにくい絵具など、日々研究や改良を重ねているといいます。

  • 和絵具は焼成前と焼成後の色が全く異なります。茶色の粉は焼くと緑色に、ピンクの粉は黄色に発色するそう。

手描きの風合いを印刷で再現

青郊の器をよく見ると、手描きの風合いが見事に再現されています。同じ色の面でも中央は濃く、まわりは淡く印刷されていて、まるで絵付け職人の筆の運び方まで伝わってくるよう。実はこの風合い、筆で描いた時にできる濃淡を表現するため、わざわざ塗りムラを印刷する版を設けて作りだしているのです。

青郊の転写紙は、色ごとの版での印刷に加え、こうした塗りムラの版までもを何重にも重ねて作られています。版の数は、一つの器を作るのに最低で約10版。多いもので40版にも上るそう。ルピシアのオリジナル豆皿も、16枚もの版を重ねて印刷されました。

  • 塗りムラを印刷するための版。
  • 完成した転写紙。何重にも印刷を重ねているため、転写紙自体にも立体感があります。
  • 完成した転写紙は、ヘラで空気を逃がしながら貼っていきます。

クオリティーには妥協しない

転写紙を貼った器は、900℃の窯で約6時間焼き上げます。焼成後の器は、ちぢり(印刷の色飛び)などの不良がないか、厳重にチェック。何らかの不具合があった場合、その修正はなんと手作業! 熟練の職人が、一つ一つ筆で描き直しているのです。

驚くことに、デザインや色によっては、どうしても不良が発生しやすく、100個焼いて100個修正が必要なケースもあるのだとか。それでも、北野社長はこう胸を張ります。

「不良率のことばかり考えすぎると、デザインが安直になってしまう。修正まで含めてやり切るのが、青郊の品質と技術力なんです」

  • 転写紙の貼り合わせ部分を、手作業で修正しているところ。この道50年のベテラン職人さんです。

「ルピシアさんとの仕事は 私にとっても刺激的です」 「ルピシアさんとの仕事は 私にとっても刺激的です」

――絵付けを印刷化しているといっても、想像以上に細かな手作業で驚きました。最も難しいのはどの工程なのですか?

北野器の型を取ることですね。器に直接プリントできる漆器とは違って、焼き物の場合は平面に展開図を描いて、それを器に転写します。立体的な器の展開図を平面に描き起こすのは、実はとても難しい。

――デザインや展開図を起こす作業は、社長自ら担当されているんですよね。

北野はい。特に大きな丸みのある器の場合は難しくて、転写紙のどこにダーツを作って、どういう方向で空気を逃がしながら貼っていくかなどを考えながらデザインしなければなりません。九谷焼で使う和絵具は、良くも悪くも焼くと流れて貼り合わせの部分が目立ちにくくなる。そういった特性を生かして、デザインするのが大切なんですね。

――ルピシアとのコラボレーションも、今年で3年目を迎えました。

北野ええ、おかげさまで。実は外部の方のデザインで商品を作ったのは、御社の他に1、2件しかなく、とっても稀なことなんです。先ほどお話したように、九谷焼は仕上がりのイメージがわかっていないと、作るのが本当に難しいものなので。だから3年前、最初にルピシアさんのデザインを見たときは、正直、不安もありました。これは上手くいくのかなぁ……と(苦笑)。

――そうだったんですか!?

北野今だから正直に言いますけどね(笑)。九谷焼のセオリーにはないデザインが多かったので驚きました。

――九谷焼のセオリー?

北野ええ。九谷焼はペーパー上のデザインと実際の仕上がりにすごくギャップがある焼き物です。ペーパー上ですごく緻密に、グラフィカルにデザインしても、焼き上げてみるといまいちになることが多い。逆にペーパーでは稚拙に見えるデザインでも、和絵具の特徴を生かして焼き上げると良いものになったりするんです。

――なるほど。確かにその感覚をつかむには経験が必要ですね。そうした中、試行錯誤しつつも北野社長に様々なアドバイスをいただきながら豆皿が完成したわけですが、おかげさまでお客様にも大好評をいただきまして。それが3年目の取り組みにもつながっています。

北野そうですね。こんな言い方するとおこがましいですが、ルピシアのデザイナーさんも3年間の経験で、九谷焼の特性をずいぶんとつかまれたのだと思います。今回の絵柄を初めて見た瞬間、九谷焼の仕上がりイメージをだいぶ捉えて描かれたデザインだと感じました。うちのスタッフたちにも、「かわいい」「欲しい」と、とっても評判で(笑)。

――今年のデザインで、北野さんが特に気に入った豆皿はどれでしょう?

北野赤と金色と白のみでデザインされた「桜十草(さくらとくさ)」は、私には思いつかない斬新なデザインと色使いです。九谷焼の先入観を持たず、自由にデザインできるからこそでしょうね。それから、豆小皿の「桜くす玉」も秀作ですよね。あの小さな印刷範囲の中で上手くまとめるのは、大変だったと思います。

――そうおっしゃっていただけると、デザイナーも励みになりますね。

北野ルピシアさんとのお仕事は、九谷焼について長年考えてきた私にとっても、大変刺激的な経験です。今回の豆皿もぜひ多くの方に手に取って使っていただいて、もっともっと九谷焼を身近に感じてほしいですね。

ルピシアのデザイナーからひと言 ルピシアのデザイナーからひと言

青郊さんとのコラボレーションで一番驚いたのは、デザインのアウトラインを筆で起こしていただく「骨描き(こつがき)」の素晴らしさです。筆で描いた線には強弱や濃淡などの表情が出るだけでなく、手作りの温かみも加わって、パソコン上で描いたデザインとはひと味違ったグレード感になることに感激しました。九谷焼というと敷居の高いイメージがあるかもしれませんが、こうした豆皿をきっかけに伝統工芸に親しんでいただけると嬉しいです。お菓子やジャムをのせたり、アクセサリーを置いたりと、さまざまな暮らしのシーンでお楽しみください。

春、花咲く豆皿 ブック オブ ティー・ジャパン