点と線からデザインへ
人間は本能的に、白い壁や何も無い空間の中では落ち着かず、壁面や空間を積極的に装飾で埋めようとします。これは私たちの遥か遠い祖先が、呪術的な祈りを込めた文様を描くことで、心に湧き起こる不安や怖れを静めていた名残なのだそうです。
文様の歴史を遡ると、その始まりは縄文〜古墳時代に生まれた粒状、平行線状、渦巻き状などの抽象的な幾何学文様でした。しかし、偶発的に発生した直線や曲線を組み合わせていたため、この頃はまだ文様を美術的・芸術的な感覚では捉えていません。一説によると、かの縄文土器の縄目も偶然撚(よ)り糸が当たったもので、初めはデザインとして意図されていなかったようです。それでも、偶然生まれた点と点は線になり、面になり、数々の種類の文様が創り出されていきます。
奈良〜平安時代には、植物や動物などをかたどった具体的な文様が生まれました。日本ならではの四季の移ろいが草花をいとおしむ感性を育て、身の回りの美しい景色が文様へと変換されます。春夏秋冬の自然の歓(よろこ)びを表現した文様は、様々な道具に写し出されました。目で見て楽しむことを目的とした、装飾文様の誕生です。そこからさらに、春の霞、秋の月など、文様と文様を組み合わせ、装飾物としての幅が広がっていきました。
『日本の装飾と文様』(海野弘 著/パイ インターナショナル)、『日本の文様』(コロナ・ブックス編集部/平凡社)