ルピシアだより 2020年4月号
チェック
アスリート×お茶 アスリート×お茶

今月は、日本を背負って戦うアスリートたちを陰で支える「お茶」の存在に注目!スポーツの世界とお茶の世界、意外な関係を探ります。

文化と誇りを胸に 世界に挑んでほしい

井上康生(こうせい)監督率いる柔道男子日本代表やソフトボールの上野由岐子選手、ボクシングの村田諒太選手……。日本を代表するアスリートたちの間で、今、茶道の輪が広がっているのをご存じでしょうか。

連日、様々なアスリートがこぞって訪れているのは、茶道家・小堀宗翔(こぼりそうしょう)さんが主宰する「アスリート茶会」。小堀さんは江戸時代から続く遠州茶道宗家13世家元の次女であり、ラクロスの現役選手でもあります。

小堀さんがアスリート向けのお茶会を始めたのは、2013年に日本代表として出場したワールドカップでの体験がきっかけ。アメリカなど強豪国の選手たちは国を背負っている誇りや覚悟に満ちあふれているのに対し、自分たち日本代表には何かが足りない……。強豪国との圧倒的な差に自信を無くしかけていた時、小堀さんを救ったのがお茶でした。

「大会期間中、持参した茶道具で海外選手にお抹茶を点てて差し上げました。その瞬間、彼らが私たちを初めて日本人として認識し、リスペクトの眼差しを向けてくれたのが印象的でした」

2020年は海外から大勢の方が日本を訪れ、日本文化に関心が集まるまたとないチャンス。

「選手の方には競技の強さや上手さだけでなく、日本文化を背負って大きく羽ばたいてほしいという思いで、アスリート茶会を始めました」

〈静〉で得た感覚が〈動〉に生きる

それにしても、スポーツとは一見関係なさそうな茶道ですが、アスリートたちはどこに惹かれるのでしょう。

小堀さんによると、スポーツはプレーで観客を沸かせるなど、外向けの自己表現が多いのに対して、茶道は決められたお点前の所作を一つ一つ行うことで自分の内側と向き合うもの。ある意味、正反対の動きです。しかし、だからこそ〈静〉の中で研ぎ澄まされた感覚が、スポーツの〈動〉にも生きてくるのだといいます。

「例えば、静かなお茶室でお点前に集中していると、工事の音など外の雑音が消えて、小鳥のさえずりや釜の煮音といった自分にとって必要な音だけがキャッチできるようになる。これはスポーツでいうゾーン(究極の集中状態)にとても似た感覚です」

事実、その効果を実感して以来、茶道を続けているのが、ビーチサッカー日本代表の後藤崇介(ごとうたかすけ)選手。後藤選手は、茶道を始めてから自分に起きた変化をこう話します。

「ひと言でいうと、五感がとても鍛えられて視野が広くなりました。どこにボールがあって、どこに敵や味方がいるかを冷静に見極められるようになったんです」

加えて、試合中のメンタルにもある変化が……。

「以前は大勢の観客がいるとプレッシャーを感じたり、ヤジにカッとなったりしていたのですが、今はそういうものに左右されず、何があっても自分のプレーだけに集中できるようになりましたね」

競技人生を長く続ける上で、後藤選手が大事にしているのがオンとオフの切り替え。普段、砂の上で激しく動き回っている後藤選手にとって、茶室で過ごす静寂は異世界だといいます。

「精神統一じゃないけれど、オフは静かな茶室でお茶を飲んでリラックスする。そういう時間をわざわざ作ることが、競技力の向上に確実につながっていると思います」

お茶は「ONE TEAM」の隠れた立役者!?

昨年のワールドカップ日本大会の成功で一躍脚光を浴びている日本のラグビー。元日本代表キャプテン・廣瀬俊朗(ひろせとしあき)さんに、ラグビーとお茶の意外な関係を伺いました。

――廣瀬さんは、お茶はよく召し上がるのですか?

廣瀬ええ。朝は紅茶をよく飲みます。茶葉からいれるのが好きで、ダージリンとアッサムとフレーバーの3種くらいは家にあります。飲むだけじゃなくて、いれている時間やその時の香りも贅沢でいいんですよね。

――ラグビー選手とお茶って、何だか意外な組み合わせですね。

廣瀬いやいや、ラグビー選手って結構カフェでお茶してるんですよ、特にアウェーの時は。試合前日は午前中練習したら午後はフリー。ずっとホテルにいると煮詰まるので外に出たいんですが、遊ぶわけにいかないし、もちろんお酒も飲めない。だからみんなで地元のカフェ巡りをするんです(笑)。2015年のワールドカップイングランド大会の時も、リーチ(マイケル選手)と一緒に行きましたよ。コーヒーや紅茶を飲みながら他愛もない会話をしたり、トランプをしたり。ラグビーのことを半分くらい忘れられて、気持ちを切り替えられる大事な時間ですね。

――現役時代は、カフェでよく選手間のミーティングも行っていたそうですね?

廣瀬はい。結構重要なミーティングをカフェでやっていました。ラグビーは試合中に監督が直接指示を出せません。選手のポジションや国籍も様々なので、みんなで同じ方向を向くために、選手同士でたくさん話し合う必要があるんです。

――そのミーティングの場面にお茶があるのとないのとでは、何か違いがありますか?

廣瀬やはり、おいしいものを飲むとほっとする。普段のミーティングルームだったら荒っぽくなってしまう議論も、外のカフェでおいしいお茶を飲みながらだと、あまりギスギスしない(笑)。だから、ちょうどいい気分転換にもなっていたと思います。

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