ルピシア グルマン通信10月 Vol.114 ルピシア グルマン通信10月 Vol.114
おおいしさのヒミツ ごちそうスープ おおいしさのヒミツ ごちそうスープ

「おいしい料理」ができるには、さまざまな要素があります。ニセコにあるグルマンの工場にも、ここにしかない要素、いわば“おいしさのヒミツ”があります。今回はそのヒミツのご紹介です。

基本は手作業

「先日、ニセコのグルマンの工場を見学にいらしたあるシェフが『ここは食品加工工場ではなく、レストランのキッチンですね』と驚かれていたんです。外部の方にそう言われて再認識したことがいくつかあります。そんなグルマンならではの“おいしさのヒミツ”(笑)をご紹介します」と植松シェフは口を開きました。

「常に基本にあるのは『おいしいものを作る』というシンプルなこと。現在の規模でこの工場が動き始めて約3年。僕自身、工場で大量生産をするための味付けをしているわけではありませんから、どうしても自分のやり方=手作業が中心になります。先日のシェフも、手作業の工程の多さに驚かれました」

手作業を重視するのは“グルマンならでは”の事情もあると植松シェフは続けます。「お届けする方法が冷凍であっても、いわゆる冷凍食品を作っているわけではありません。また、これだけ毎月、多品種の新製品を発売するというスタイルは他社ではあまりないことでしょう。逆に言えば、大手のような生産ラインはつくれない。ご好評をいただいている定番商品ですら、シンプルな生産体制ですからね。素材と丁寧に向き合う。まずこれが“おいしさのヒミツ”の基本です。しかし、決して機械化にネガティブなのではありません。味に過不足がなければ、先々、機械化して効率を上げることもあるでしょう」

技術の進歩

通信販売はおいしく作ったものをいかにして、おいしいままお届けするかという問題とのせめぎ合い……だと植松シェフは考えています。

「技術の進歩とともに、不可能が可能になったこともあります。たとえば、液体急速凍結機がそうです。一般的な空気で凍らせる冷凍機の20倍の熱交換率があるという技術ですが、この方法であれば、これまで難しかった調理したジャガイモやニンジンなどの風味をおいしくお届けすることができます。トウモロコシも時間が経つと、もぎたてのおいしさが逃げてしまうのですが、ちょっと大袈裟に言えば、僕らが味見して「よし!」という味をそのまま閉じ込めることができるというイメージです。こうした技術の進歩も“ヒミツ”のひとつだと思います。おかげで商品の幅も広がっています。このような新しい技術を積極的に導入することも重要なことだと考えています」

欠かせぬ存在

おいしい料理を作るためにもっとも大切な“ヒミツ”をお見せします……と、次に植松シェフが向かった先は「ごちそうスープ」に欠かすことのできない素材、ニセコのトウモロコシ生産者・猪狩(いがり)農園。グルマンの工場から猪狩農園へは車で数分。まさに“スープの冷めない距離”です。

植松シェフと農園主の猪狩一郎さんとのお付き合いは、かれこれ5、6年。猪狩さんはお米を主とする生産者ですが、少量(といっても、大きな畑ですが)だけ生産するトウモロコシは植松シェフにとって大切な存在です。

「最初、生食用のトウモロコシを仕入れたいと聞いた時には驚きましたね。普通、加工食品には安価な加工用を使うものだという固定観念がありましたから。おいしいものを作るということは、そうしたことかと感心しました」と当時を振り返る猪狩さん。

一方、植松シェフは猪狩さんのトウモロコシを次のように表現します。
「コーンスープを例にすれば『もう自分では味付けしたくない』という気持ちになります。シンプルな工程で、猪狩さんのトウモロコシなら間違いなくおいしいスープができるという自信と信頼があります。素材頼みにしているように聞こえるかもしれませんが、トウモロコシ自体に力がないとそうはいきません。お客様に『えっ、こんなにおいしいの! ?』という感動を与えるくらいの差があります」と絶賛です。

本気のぶつかり合い

「60歳を過ぎたある日、私は自分が作っているものは作物ではなく『命』なんだと気づかされました。命のために命を作る。そう思うと、畑にも、そこに育つ命にも敬意と愛情が湧いてきます。

これまでルピシアの担当の方には随分と厳しいことも言いました。『今日、欲しい』とどんなに言われても、最高の状態でないものは出荷できないのです。そうでないと命に失礼になる。それに、ニセコを拠点に選んでくれたルピシアさんには絶対に成功してほしい。生産者と料理人ががっぷりと組み合って、お互いを高めていく。それがニセコという土地の信頼になっていくと思うのです」と猪狩さんは熱心に思いを語ってくださいました。

「猪狩さんをはじめ、ニセコの生産者の皆さんは本気ですから、こちらも本気でないとお付き合いさせてもらえません。そうしたプレッシャーはいつも感じています。過去、自分の至らなさから失敗したこともあります。そうした経験を糧に、よりおいしい料理を目指す。ニセコの生産者の皆さんのご協力こそ、グルマンの“おいしさのヒミツ”であり、力なのです」と植松シェフ。猪狩さんが収穫したトウモロコシを抱え、車に積み込みます。

一刻も早く、おいしい味を逃さないよう、工場へ急ぎます。