千一夜に渡って語られた様々なアラビアンナイトの物語。幾つかの物語を少しのぞいてみましょう。

- *あらすじ*
昔、中国にアラジンという貧しい少年がいました。仕事もせず遊んでばかりいた彼は、ある日、宝石あふれる地下室で古ぼけたランプを手に入れます。ランプをこすると、何でも望みを叶えるジン(魔人)が現れ、アラジンは一躍大金持ちになりました。
そんなある日、皇帝の姫君に一目惚れしたアラジンは、魔法のランプの力を借りなんとかして姫君と結婚しようと策を練ります。アラジンは皇帝に美しい数々の宝石を献上し、その見事さに驚いた皇帝は、姫君との結婚を許可しました。
しかし、姫君を自分の息子と結婚させることを狙う宰相は面白くありません。宰相は、アラジンと姫君の結婚を三ヶ月延ばさせて、その間に息子と姫君の婚礼を済ませてしまおうと企みました。それを知ったアラジンは、ランプの魔人に命じ、王宮から宰相の息子と姫君を連れてこさせ、夜の間中、宰相の息子を閉じ込めます。翌朝、二人は王宮に戻されましたが、恐れをなした宰相の息子は、姫君との結婚を辞退してしまいました。
一方アラジンは、皇帝から婚礼の条件として求められた「純金の大鉢40個に宝石を山盛りにし、80人の美しく着飾った婚礼の行列に持って来させる」という難題も魔法のランプの力で難なく解決。姫君とめでたく結ばれ、ランプの魔人に豪華な宮殿をつくらせて新居としました。
*すべてがうまく運び、幸福に暮らすアラジンでしたが、そんな彼を妬む一人の男がおりました。その男はマグレブ(モロッコ)の魔法使いで、アラジンの手に入れたランプをかねてより狙っていながらも、ランプにかかった魔力のために手に入れることができず、悔しい思いをしていたのでした。魔法使いは、古いランプを新しいランプと取り換えてあげようと言いながら街を歩き、興味を持った姫君は魔法のランプを魔法使いに渡してしまいます。
いったんはランプを奪われたアラジンでしたが、姫君とともに魔法使いの宮殿に忍びこみ、眠り薬の入った葡萄酒を姫君の手で魔法使いに飲ませ、魔法使いを退治してランプを取り戻すことができました。
それからは、アラジンと姫君はずっと幸福に暮らしたということです。
- * みどころ *
アラビアンナイトのうち最もよく知られたお話ですが、丁寧に読み直してみると、舞台が中国であることなど、意外な発見が。機転をきかせてピンチをすりぬけるアラジンの活躍はもちろん、魔術的な雰囲気に満ちているのも魅力です。

- *あらすじ*
昔あるところに、三人の王子がいました。王子たちは美しい姫君ヌレンナハールをめぐって競い、世界で最も珍しい宝物を持ってきた者が姫君と結婚できることになりました。三王子は旅に出て、長男は「どんな病気でも治る魔法の林檎」、次男は「見たいものが見える望遠鏡」、末っ子は「魔法の絨毯」を手に入れ帰路につきます。
王宮に戻る道すがら三王子が出会い、姫君の様子を見ようと「見たいものが見える望遠鏡」を覗くと、姫君は病の床に臥せってました。三人は「魔法の絨毯」に乗って王宮に戻り、「どんな病気でも治る魔法の林檎」で姫君の命を救うことに成功します。
けれども、三人の宝物のうち、どれが欠けても姫君を助けることはできなかったので、宝物の優越は決められず、その代わりに弓矢を一番遠くまで放った者が姫君をめとることになりました。
末っ子の王子が一番遠くまで矢を放ちましたが、あまりに遠くに落ちてしまったので矢が見つかりません。そこで、次男の王子が姫君の夫となる権利を手に入れる結果となってしまいました。
*がっかりした末っ子の王子は、王宮を去り、矢を探す旅に出ます。王子は、ある岩山で矢を見つけますが、矢が落ちた場所は壮麗な地下宮殿への入り口へと続いていました。誘われるように地下宮殿へと赴いた王子は、そこで眩いばかりに美しい女性と出会います。その女性はジン(魔女)で、魔法の絨毯も、望遠鏡も、林檎もじつはこの魔女のものだったのです。やがて二人は恋におち、めでたく結ばれることになりました。
末っ子の王子はそこで6ヶ月間を幸せに過ごしますが、やがて残してきた皆のことが気になり、一度王宮に戻ることにしました。王子は魔女の召使いたちの豪壮華麗な行列を従えて帰還したので、父王は王子が謀反を起こそうとしているのではないかという疑いを起こします。父王は、女魔術師に魔女の宮殿に戻る王子の後をつけさせ、その秘密を探り当てました。
魔女の秘密を知った父王は、王子に魔法の天幕を出すように要求します。王子は魔女と相談し、魔法の天幕を持ってきますが、中から出てきたのは力持ちの魔人。魔人は父王を倒し、王国には新たに末っ子の王子が即位しました。王子は、他の二人と兄弟とともによく国を治め、美しい魔女を伴侶として幸せに暮らしたということです。
- * みどころ *
有名な「魔法の絨毯」が登場する物語。三人の王子が姫君の愛を得るために宝物さがしの旅に出る物語は、日本の竹取物語を思わせます。あらすじは前半部のお話ですが、後半部では美しい魔女が末っ子の王子を助け活躍する幻想的な物語が楽しめます。

- *あらすじ*
昔、ある国に、百合も薔薇もその前では色褪せるほど麗しい、ジャスミン王子と呼ばれる王子がいました。王子はある日、修道僧の導きにより、月も恥じらうほど美しいアーモンド姫と出会います。
一目見るなり激しい恋におちた二人は、一緒に過ごすために知恵を絞ります。アーモンド姫は、ジャスミン王子を王室の牧者として推薦し、二人は夜の庭で密かに会うことを続けました。
しかしある時、アーモンド姫の叔父が二人が恋の秘密を知ってしまいます。怒った王は、姫を急いで別の男と結婚させようと婚礼の用意を整えました。
いよいよ婚礼の日の夜、アーモンド姫は、婚礼の間に自分一人がだけが残された隙(すき)を見て、金の衣装を着たまま音もなく外に出て、ジャスミン王子のもとへ旅立っていきました。
二人の恋人たちは、薔薇色の風のように軽やかに消え去り、その後、誰も二人の行方を知ることはありませんでした……。
- * みどころ *
千一夜続いた物語の最後を飾る恋物語。王子と王女の麗しさが、「チューリップの顔(かんばせ)」、「ヒヤシンスの髪」、「密閉された香水の瓶のような心」など、流麗な表現で見事に描写されています。中近東の人々の、ジャスミンの花とアーモンドの実への深いあこがれも感じられる優雅な物語です。
- *あらすじ*
昔、ペルシアの森に三人の兄妹が仲良く暮らしていました。この二人の兄と妹は、じつは皇帝の実の子だったのですが、妃の幸福を妬む二人の姉によって捨てられ、王宮の庭番に拾われて育てられていたのでした。
三人は森での暮らしに満足していましたが、ある日、妹が家を尋ねてきた老婆を親切にもてなします。老婆はそのお礼として、この家に足りない三つの宝物と、そのありかを妹に教えました。その三つの宝とは、「ものをいう鳥」、「歌う木」、「黄金に輝く水」という、今までに聞いたこともない不思議なもので、妹はすっかりそれらを欲しくて堪らなくなってしまいました。
二人の兄が宝物を求めて旅に出ますが、二人とも帰ってきません。彼らは、「ものをいう鳥」が住む場所へ続く道で、魔物の声に呼び止められて後ろを振り返ったため、魔力で石に変えられてしまったのでした。
二人の兄が危ない目に遭ったことを悟った妹は、勇敢にも自ら男装して宝物を探す旅に出ます。修道僧から、二人の兄が魔物の声に振り返ったため石に変えられたことを教えられた彼女は、耳に綿をつめ、魔物の声に惑わされることなく三つの宝物を手に入れます。そして、「ものをいう鳥」から、魔法を解く方法を聞き出し、二人の兄を元に戻して家に帰ったのでした。
*家に戻った三人は、それまで通り仲良く暮らしていましたが、ある時、狩に出た二人の兄は、偶然皇帝と出会います。二人の兄を気に入った皇帝は、三人が住む家を訪れることになりました。皇帝が「ものをいう鳥」の前に来ると、鳥は口を開き、三人の兄妹が皇帝の子どもたちであることを告げました。
ことの真相を知った皇帝は、三人を捨てた妃の姉たちを処罰した後、この兄妹たちを王宮に迎え入れ、皆はいつまでも幸福に暮らしたのでした。
- * みどころ *
「ものをいう鳥」、「歌う木」、「黄金に輝く水」という空想的な宝物が登場する物語ですが、自ら男装して宝物を探す冒険に乗り出し、見事に成功をおさめる妹の王女がとても魅力的に描かれています。アラブの女性というと、ヴェールに身を包んだ慎ましい姿を思い浮かべますが、この物語の主人公の妹は、持ち前の行動力と智慧を使って、兄二人もなしえなかったことを達成してしまいます。
この物語に限らず、アラビアンナイトの登場人物たちは、いきいきと人間的に描かれており、現代の私たちもじゅうぶんに共感できます。こんなところも、アラビアンナイトが現在まで読み継がている秘密なのかもしれませんね。
- *あらすじ*
昔、ペルシアの王のもとにインド人がやってきて、精巧なつくりものの馬を披露しました。馬は、皆が見ている前で空高く舞い上がり、千里の距離をひとっ飛び。すっかり魅了された王様は、この魔法の馬を手に入れようとしますが、インド人は馬と引き換えに、姫君と結婚したいと言い出します。
しかし、王子はこの話に大反対。なんとか王を思いとどまらせようとしますが、それなら実際に馬に乗ってみてから意見を聞かせてほしいと言われ、王子は馬の鞍にまたがります。すると馬は空高く飛び上がり、王子を乗せてはるか遠くの空へ翔けていきました。ところが、王子は馬を止める方法を教えられておらず、馬の止め方が分かった時には、遥か遠く、インドのベンガルまで飛んでいってしまっていたのでした。
ようやく馬を降りることができた王子は、近くに建っていた壮麗な宮を訪ねます。そこはベンガル王の離宮で、美しい王女が避暑のために滞在していたのでした。王子と王女は互いに一目惚れし、しばらくの間、共に麗しい時を過ごします。しかし、後に残してきた国のことが気になる王子は、王女を連れて魔法の馬でペルシアへ戻ることにしました。
*二人を乗せた馬は悠々とペルシアへ降り立ち、人々は王子の帰還を喜びました。面白くないのは、馬のもともとの持ち主であったインド人です。隙をみたインド人は、馬で王女をさらって飛び去ってしまいました。
さらわれた王女は、カシミールの王によってインド人の手から救い出されますが、今度はカシミール王と無理に結婚させられそうになってしまいます。困った王女は、病気を装い結婚を逃れようとするのでした。
一方、王女を探す旅に出たペルシアの王子は、カシミールの国でベンガルの王女の噂を耳にします。医者に変装した王子は、カシミール王の宮殿を訪れ、王女とめでたく再会。二人はカシミールの宮殿を脱出し、魔法の馬でペルシア王国に帰り、幸せに暮らしたということです。
- * みどころ *
空高く飛ぶ人工の馬が印象的な物語。当時、科学技術が世界一発達していた中世アラブ世界では、機械仕掛けで動く噴水や動物がつくられていたという話ですから、この馬もそんな機械仕掛けの乗り物の一つとして考えられたのかもしれません。
馬に乗った王子が、ペルシアからインド、カシミールと広大な距離を旅するスケールの大きさも、アラビアンナイトならではです。
- *あらすじ*
昔、学問を愛する美しい若者がいました。若者は、世界一と言われる学者を訪ね、はるばる遠方の国まで旅をします。
目的の国へ辿り着いた若者は、学者のもとへ赴き教えを請いましたが、鍛冶屋を営むその老人は、若者に鍛冶屋の仕事の手伝いを命じます。若者は、何年も辛抱づよくふいごの綱を引き続けましたが、学問を授けられることはいっこうにありませんでした。
そうして10年が経った時、老人は若者に手をかけ「お前はすべての知識を手に入れた。というのも、お前は忍耐という美徳を得たのであるから」と言いました。若者は顔を輝かせて故郷に戻り、人の世のことがはっきり見えるようになったということです。
- * みどころ *
各地の説話を集めたアラビアンナイトには、シンドバッドの冒険のような、今でいう長編ファンタジー小説にも似た壮大な物語から、人々を教え諭す教訓の含まれた短い説話まで、様々なタイプのお話がおさめられています。
その雰囲気をお伝えするため、説話的な物語も一つ選んでみました。空想的な面白さこそありませんが、鍛冶屋の仕事の描写を通し、当時のアラブ世界の人々の息遣いや生活感も伝わってくる好編です。